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遺産分割協議そのものには、「相続開始から何年以内に成立させなければならない」という一律の期限はありません。民法上、共同相続人は、遺言による分割禁止がない限り、いつでも遺産の全部または一部を分割できます。したがって、相続開始から10年、20年が経過していても、遺産分割を行うこと自体は可能です。
ただし、期限がないからといって、長期間放置しても問題がないわけではありません。
相続人が複数いる場合、遺産分割が完了するまで、相続財産は原則として各相続人の相続分に応じた共有状態になります。
例えば、父親が亡くなり、相続人が長男と長女の2人だった場合、遺産分割が成立するまでは、父親の不動産などを2人が共同で相続している状態になります。
その後、相続人全員が合意すれば、相続開始から長期間が経過していても、次のような遺産分割を行えます。
自宅は長男が取得する
預貯金は長女が取得する
不動産を売却して代金を分ける
長男が不動産を取得し、長女に代償金を支払う
相続人間で話し合いが成立しない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停または審判を申し立てることもできます。民法は、協議が調わない場合、各共同相続人が遺産の全部または一部の分割を家庭裁判所へ請求できると定めています。
令和3年の民法改正によって、相続開始から10年が経過した後の遺産分割に関するルールが変更されました。
この改正を受けて、「遺産分割は10年以内にしなければならない」と説明されることがありますが、正確ではありません。
10年を過ぎても遺産分割はできます。
変わるのは、家庭裁判所などで分割割合を判断する際に、原則として「特別受益」や「寄与分」を考慮できなくなる点です。
10年ルールは、主として、家庭裁判所が法的な基準に基づいて遺産を分割する際に問題になります。
相続人全員が合意できる場合は、10年が経過した後でも、特別受益や介護への貢献などを事実上考慮し、法定相続分とは異なる分け方をすることができます。
例えば、相続開始から15年が経過していても、相続人全員が納得していれば、次のような協議を成立させることが可能です。
「長男は生前に住宅資金を受け取っているため、今回の預金は長女が多く取得する」
「長女が長年父親を介護していたため、自宅は長女が取得する」
民法は共同相続人による協議を認めており、調停も最終的には当事者全員の合意による解決を目指す手続きです。10年を経過したからといって、相続人全員が納得した分割方法まで禁止されるわけではありません。
相続開始から10年が経過する前に、相続人が家庭裁判所へ遺産分割を請求していれば、手続きの途中で10年を過ぎても、特別受益や寄与分を考慮できる可能性があります。
ここで重要なのは、単に相続人同士で話し合っているだけでは足りないという点です。
内容証明郵便を送ったり、相手に協議を求めたりしただけでは、10年の期間に関する例外を確実に利用できるとは限りません。特別受益や寄与分を主張する必要があり、期限が迫っている場合は、原則として期間内に家庭裁判所へ遺産分割調停または審判を申し立てることが重要です。
10年の期間が満了する前6か月以内に、遺産分割を請求できないやむを得ない事情があった場合には、例外が認められる可能性があります。
その場合、その事情がなくなった時から6か月以内に家庭裁判所へ遺産分割を請求すれば、特別受益や寄与分を考慮できることがあります。
ただし、単に「家族間で話し合っていた」「忙しくて手続きできなかった」という事情だけで、当然に例外が認められるわけではありません。
期限直前になってから判断するのではなく、早めに申立ての要否を検討する必要があります。
10年以内に遺産分割調停または審判を申し立てた後、10年を経過してから申立てを取り下げる場合は、相手方の同意が必要となります。
これは、一人の申立人が勝手に取り下げることによって、ほかの相続人が特別受益や寄与分を主張する機会を失うことを防ぐためです。
相続人全員が、「すぐには遺産を分けない」と合意することもできます。
共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部または一部を分割しない旨の契約をすることができます。契約を更新することもできますが、その終期は原則として相続開始から10年を超えることができません。
また、被相続人は遺言によって、相続開始から5年を超えない期間、遺産分割を禁止できます。
相続人の一人が遺産分割前に亡くなると、その人の相続人が地位を引き継ぎます。
例えば、父親の遺産分割が終わらない間に長男が亡くれた場合、長男の配偶者や子どもが新たに協議へ参加することになります。
相続が重なるたびに関係者が増え、全員の合意を得ることが難しくなります。
相続人が認知症などによって遺産分割の内容を理解できなくなった場合、成年後見人などの選任が必要になることがあります。
後見人と本人の利益が対立する場合には、特別代理人等の選任が必要になるケースもあります。
古い預金記録、贈与契約書、介護記録、領収書、被相続人とのやり取りなどは、時間の経過とともに失われやすくなります。
10年ルールが導入された背景にも、長期間の経過により、特別受益や寄与分を判断する資料が散逸しやすいという問題があります。
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