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このような場合には、母親が子どもを代理して遺産分割協議をすることはできず、家庭裁判所に申し立てて、子どものための特別代理人を選任してもらう必要があります。裁判所も、父が死亡し、共同相続人となった母と未成年の子が遺産分割協議を行うケースを、典型的な利益相反行為として挙げています。
ただし、「相続人の中に未成年者がいれば必ず特別代理人が必要」というわけではありません。特別代理人が必要になるのは、親権者と未成年の子どもの利益が相反する法律行為を行う場合です。そのため、父親が生前に有効な遺言書を作成し、「自宅は妻に相続させる」「○○銀行の預金は長女に相続させる」「その他一切の財産は妻に相続させる」というように財産の帰属を具体的に決めており、その遺言どおりに財産を承継するのであれば、原則として遺産分割協議そのものを行う必要がなく、遺産分割協議のために特別代理人を選任する必要もなくなります。法務局も、妻と未成年の子が共同相続人となる場合、遺言書がなければ特別代理人を選任して遺産分割協議を進める必要が生じる一方、遺言書を用意することがその負担を減らす方法になると案内しています。
特別代理人と未成年後見人は混同されやすい制度ですが、役割は異なります。特別代理人は、遺産分割協議など特定の利益相反行為について、一時的に未成年者を代理するために選任されます。その遺産分割などの対象となった行為が終了すれば、基本的に特別代理人の役割も終了します。
一方、未成年後見人は、親権を行う者がいない未成年者について、継続的に監護養育や財産管理などを行う制度です。たとえば父親が亡くなっても母親が親権者として生存しているのであれば、通常は未成年後見人を選任する場面ではありません。しかし、母親と子どもが父親の共同相続人として遺産分割をする場合には、母親には親権があっても、その遺産分割については利益相反になるため特別代理人が必要になります。裁判所も、この二つを明確に区別しています。
未成年の子どもが2人以上いる場合には、親と子どもの利益相反だけでなく、子ども同士の利益相反も問題になることがあります。
たとえば父親が亡くなり、相続人が妻、10歳の長男、7歳の長女だったとします。母親自身が相続人であるため、母親とそれぞれの子どもの間には利益相反があります。さらに、長男が多く取得すれば長女の取得分が少なくなる可能性があるため、長男と長女の間にも利益が対立することがあります。裁判所も、親権者を同じくする複数の未成年者が共同相続人となる場合には、子ども同士にも利益相反が生じるとして、特別代理人の選任が必要になる場合があると説明しています。
したがって、未成年の子どもが複数いる場合には、一人の特別代理人ですべての子どもを代理できるとは限りません。それぞれについて別の特別代理人を選任する必要が生じる場合があります。この点でも、未成年の子どもがいる家庭では、遺産分割協議を死亡後に一から行うより、生前に遺言書で財産の承継先を整理しておく意味があります。
「遺言書さえあれば、どんな場合でも特別代理人は不要」と考えるのも正確ではありません。重要なのは、死亡後に親権者と子どもの間で利益相反となる法律行為をする必要があるかどうかです。
たとえば有効な遺言書によって自宅、預貯金、その他の財産の取得者がすべて明確に定められており、その内容どおりに相続手続きを進めるのであれば、通常は財産の分け方について母親と未成年の子どもが改めて遺産分割協議をする必要はありません。そのため、遺産分割協議のための特別代理人も原則として不要になります。法務局も、未成年の子どもがいる家庭について遺言書を残すメリットとして、この点を紹介しています。
しかし、遺言書に書かれていない財産が見つかり、その財産について母親と子どもで遺産分割協議をしなければならない場合や、相続人全員の合意によって遺言とは異なる財産分配をしようとする場合などには、あらためて利益相反が問題になる可能性があります。また、未成年の子だけ相続放棄をする場合など、遺産分割以外の手続きでも利益相反となれば特別代理人が必要になることがあります。裁判所は、親権者と未成年者が共同相続人で、未成年者だけが相続放棄をする場合なども特別代理人が必要となるケースとして案内しています。
そのため、遺言書を作るのであれば、自宅や主要な預貯金だけを書くのではなく、書き漏らした財産についても誰が取得するのかを定める残余財産の条項まで設けておくことが重要です。
遺言書
第1条
遺言者は、下記不動産を妻山田○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
所在 ○○市○○区○○町○丁目
家屋番号 ○番○
種類 居宅
構造 ○○
床面積 ○○平方メートル
第2条
遺言者は、○○銀行○○支店に対して有する普通預金及び定期預金に係る預貯金債権を、妻山田○○に相続させる。
第3条
遺言者は、○○銀行○○支店に対して有する普通預金債権を、長女山田○○(令和○年○月○日生)に相続させる。
第4条
遺言者は、前各条に記載した財産を除くその他一切の財産を、妻山田○○に相続させる。
第5条
遺言者は、本遺言の遺言執行者として○○○○を指定する。
行政書士法人クローバー法務事務所
代表行政書士
大山悠太
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