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ご家族間での話し合い、情報共有は重要
認知症には軽度のものから重度のものまであり、症状も常に同じとは限りません。認知症と診断されていても、財産の内容や家族関係を把握し、自分の意思として「自宅は妻に、預金は長男に残したい」といった判断ができる状態であれば、遺言能力が認められる可能性があります。反対に、認知症の診断を受けていなかったとしても、遺言作成時に自分の財産や相続人、遺言内容をほとんど理解できない状態であれば、遺言能力が問題になることがあります。
そのため、「認知症の診断を受けた日より前なら有効、診断を受けた後なら無効」というように、明確な日付で機械的に分けることはできません。
また、遺言内容の複雑さも無関係ではありません。たとえば「全財産を妻に相続させる」という比較的単純な内容と、多数の不動産や会社株式を複数人へ細かく分配し、一部を第三者へ遺贈するような複雑な内容とでは、本人が理解しなければならない内容も異なります。実際に遺言能力が争われた場合には、遺言作成時の本人の状態、医療記録、遺言の内容、作成に至った経緯、家族との関係など、さまざまな事情を踏まえて判断されます。
認知症などによって判断能力が低下し、すでに家庭裁判所の審判によって成年被後見人となっている場合には、通常の場合とは別の特別なルールがあります。
現在の民法第973条では、成年被後見人が一時的に事理を弁識する能力を回復したときに遺言をする場合、医師2人以上の立会いが必要とされています。さらに、立ち会った医師は、遺言者が遺言をした時点で精神上の障害によって事理を弁識する能力を欠く状態ではなかった旨を遺言書に付記し、署名・押印しなければなりません。
認知症の程度が軽く、本人自身が遺言を作成したいと希望している場合には、遺言作成前後の本人の状態を医師に確認してもらうことは、後日のトラブルを防ぐうえで役立つ場合があります。特に、すでに認知症の診断を受けている場合や、家族の一部から「本人には遺言を書く能力がないのではないか」と疑われる可能性がある場合には、診療記録や診断書などが遺言作成時の本人の状態を確認する資料となることがあります。
ただし、成年被後見人について民法第973条が適用される場合を除けば、「認知症の人が遺言するには必ず医師の診断書が必要」という法律上のルールがあるわけではありません。また、医師が「認知症は軽度である」と記載した診断書があれば遺言が必ず有効になるわけでもなく、反対に認知症と診断されているから必ず無効になるわけでもありません。診断書はあくまで遺言作成時の本人の状態を示す重要な資料の一つであり、最終的には遺言内容や作成経緯などを含めて総合的に判断されます。
そのため、認知症が疑われる段階で遺言を作成するのであれば、単に診断書だけを準備するのではなく、本人が誰に何を残したいのかを自分の言葉で説明できる状態であることが非常に重要です。周囲の家族が財産の内容や分け方を決め、それを本人に署名させるような作成方法は、後から「本人自身の意思による遺言ではなかった」と争われる原因になりかねません。
認知症や高齢によって遺言能力が後から問題になる可能性がある場合には、自筆証書遺言だけでなく、公正証書遺言を検討する方法があります。公正証書遺言では、公証人が遺言者本人から遺言内容を聞き取り、本人の意思を確認しながら遺言書を作成します。
しかし、公正証書遺言を作成できたからといって、その遺言が後から絶対に無効にならないという意味ではありません。公証人が本人の意思を確認して作成するため、自筆証書遺言に比べて遺言能力をめぐる紛争を予防しやすいという大きなメリットがありますが、死亡後に相続人から遺言能力を争われる可能性そのものがなくなるわけではありません。公正証書には強い証明力がありますが、遺言能力の有無について争いが生じれば、医療記録や作成当時の本人の言動、遺言内容などを含めて判断されることになります。
したがって、認知症の兆候がある人が公正証書遺言を作成したい場合には、できるだけ早い段階で公証人へ相談し、必要に応じて医師の診断書や診療記録などを準備しておくことが考えられます。
遺言能力の有無が死亡後に問題になると、本人自身はすでに亡くなっているため、「本当はどのように考えていたのか」を本人に確認することはできません。そのため、遺言内容に不満を持つ相続人から「遺言を書いた当時、すでに認知症が進んでいた」「本人がこのような財産分配を考えられる状態ではなかった」と主張され、遺言の有効性をめぐって紛争になることがあります。遺言無効確認訴訟となった場合には、遺言作成当時の医療記録や本人の言動、遺言内容、作成経緯などが重要な判断材料になります。
特に、それまでの財産配分や家族関係から大きく外れる遺言を作る場合や、特定の相続人だけに全財産を相続させる場合には、死亡後に遺言能力が争われる可能性も考えておく必要があります。そのような場合には、公正証書遺言を利用し、必要に応じて医師にも本人の状態を確認してもらうなど、本人自身の意思によって作成されたことを後から確認できるよう準備しておくことが大切です。
もっとも、最も確実な対策は、認知症が進行してから慌てて遺言書を作るのではなく、本人に十分な判断能力があるうちに、自分自身の意思で遺言内容を決めておくことです。「まだ元気だから遺言は先でよい」と考えているうちに判断能力が低下すると、本人が望んでいても有効な遺言書を作成することが難しくなる場合があります。
認知症の人が作成した遺言書が有効か無効かは、「認知症であるかどうか」だけでは決まりません。重要なのは、遺言をしたその時点で、本人が遺言内容とその結果を理解し、自分の意思として財産の処分を決定できる状態だったかどうかです。認知症と診断されていても遺言能力が認められることはありますし、逆に形式上正しく作成された遺言書であっても、作成時に必要な能力がなかったと判断されれば有効性が否定される可能性があります。
行政書士は、その業務範囲において、戸籍や推定相続人の確認、財産関係の整理、財産目録、自筆証書遺言の作成支援、公正証書遺言の文案・資料準備などを行うことができます。認知症が疑われる場合には、本人の意思を最優先にしながら、公正証書遺言を利用するか、医師による確認を行うかなども含めて準備することが大切です。
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