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一方で、パソコンで文書を作成するだけで遺言が完成する制度ではありません。遺言者本人による所定の手続きが必要であり、現在の自筆証書遺言にはない負担も生じます。
保管証書遺言では、遺言者が作成した文書を法務局へ提出するだけではなく、遺言書保管官の前で遺言の内容を確認する手続きが必要です。
改正制度では、遺言者自身が原則として遺言の全文を口述し、遺言書保管官が作成された遺言と照合する仕組みが採用されています。これは、遺言が本人の真意に基づいて作成されたことを確認するための重要な手続きです。
手書きする必要がなくなる一方、内容の長い遺言では全文を読み上げること自体が負担になる可能性があります。特に高齢者や長時間話すことが難しい人にとっては、「パソコンで作成できるから簡単」とは一概にいえません。
現在の自筆証書遺言は、法律上の方式を満たしていれば、遺言者が自宅で一人で作成することができます。これに対して、保管証書遺言は法務局による確認・保管を制度の前提としており、遺言者が遺言書保管官による本人確認など所定の手続きを受ける必要があります。
そのため、「思いついたときにパソコンで作成し、そのまま保存して完成」という手軽さはありません。内容を変更したい場合にも、パソコン上のファイルを自由に書き換えるだけで済むわけではなく、成立した遺言を変更・撤回する場合には遺言制度に従った手続きが必要になります。
もっとも、こうした公的機関の関与は単なるデメリットではありません。
本人確認や遺言内容の確認、法務局での保管を行うからこそ、第三者による偽造・変造や紛失などのリスクを抑えられます。利便性と安全性を両立させるために、一定の手続負担を求める制度であると考えると分かりやすいでしょう。
保管証書遺言では、一定の場合にウェブ会議を利用して本人確認や遺言内容の確認を行える仕組みも設けられる予定です。
そのため、身体的な事情などから法務局へ出向くことが難しい人にとっては、負担の軽減が期待できます。
ただし、誰でも希望すれば自宅からオンラインだけですべての手続きを完結できるという制度ではありません。
本人の周囲に利害関係人がいて不当な働きかけをしている可能性がある場合などには、ウェブ会議による手続きを中止し、法務局への出頭を求める運用も想定されています。
遺言は本人の最終意思を示す重要な法律行為であるため、単純な行政手続きと同じように「オンライン化すれば便利」というだけでは済みません。本人確認と本人の真意をどのように確保するかが重要であり、そのため利用方法には一定の制限が設けられることになります。
遺言を電子データとして作成できるようになると、偽造・変造、本人以外の者による作成など、デジタル特有のリスクへの対策も必要になります。実際、法制審議会では、録音・録画を利用する方式や民間事業者のアプリを利用する方式なども検討されましたが、偽造・変造や紛失などへの懸念から最終的には採用されませんでした。
最終的に採用された保管証書遺言では、遺言書保管官による本人確認、遺言者自身による遺言内容の口述、法務局での保管を組み合わせることで、こうしたリスクを抑える仕組みになっています。そのため、従来検討されていた「本人だけで電子ファイルを作成し、自分で保管する方式」と比べれば、なりすましやデータ紛失の問題は大きく軽減されています。
それでも、電子データを扱う以上、システムの安全性や本人確認方法などを継続的に適切に運用していく必要があります。特に将来、AIなどの技術がさらに発達すれば、本人確認の方法についても技術の進歩に応じた対応が求められるでしょう。
パソコンなどで遺言を作成できることは大きなメリットですが、すべての人にとって使いやすいとは限りません。特にパソコンやスマートフォンを日常的に利用していない高齢者の場合には、電子データの作成や保存、申請に必要となる操作そのものを負担に感じる可能性があります。
また、本人がデジタル機器の操作を家族に任せきりにすると、「本当に本人が考えて作成した遺言なのか」という問題が生じる可能性もあります。作成を手伝う家族が遺産を受け取る立場にある場合には、死亡後に他の相続人から不当な働きかけがあったと疑われることも考えられるため、本人自身の意思で作成したことを明確にしておくことが重要です。
もっとも、保管証書遺言が導入されたからといって、すべての人がデジタル方式を利用しなければならなくなるわけではありません。保管証書遺言は従来の遺言方式に代わって一本化する制度ではなく、新たな選択肢として追加されるものです。自筆証書遺言や公正証書遺言なども含め、自分の年齢、健康状態、財産内容、デジタル機器への慣れなどに応じて利用しやすい方法を選ぶことが大切です。
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