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老老相続を円滑に進めるための対策

初めに

ご家族間での話し合い、情報共有は重要

老老相続では、財産を残す側だけでなく、相続する配偶者や子どももすでに高齢になっていることがあります。そのため、相続が始まってから財産を探したり、家族の希望を確認したりしようとしても、本人の判断能力が低下していたり、相続人が入院・施設入所していたりして、思うように手続きを進められないことがあります。

こうした負担を減らすには、相続が発生してから対処するのではなく、本人が元気で判断能力が十分なうちに、財産の整理、家族との情報共有、遺言書の作成、将来の財産管理方法などを少しずつ準備しておくことが重要です。

家族で将来の生活と相続について話す機会をつくる

最初に取り組みやすいのが、本人と家族の間で将来について話すことです。相続の話というと、「誰がいくら財産をもらうのか」という話になりがちですが、それだけではありません。

特に老老相続では、本人だけでなく配偶者や子どもも高齢になっているため、「長男が全部の手続きをしてくれる予定だったが、その長男も入院してしまった」ということも考えられます。一人だけを前提にせず、家族全体の健康状態や生活状況も確認しておくことが大切です。

もっとも、家族で話し合った内容そのものに、遺言書と同じ法律上の効力が生じるわけではありません。

「長男に自宅を渡すと家族全員で話した」というだけでは、相続開始後の財産承継が法的に確定するわけではないため、重要な希望については遺言書など正式な方法で残すことも検討します。

預貯金・不動産・負債などの財産を一覧にしておく

相続が始まった後の負担を大きく減らせるのが、財産の棚卸しです。預貯金、不動産、有価証券、生命保険、投資信託、貸付金などのプラスの財産だけでなく、住宅ローン、借入金、未払金、保証債務などについても整理しておきます。

預貯金であれば金融機関名や支店名、不動産であれば所在地、有価証券であれば証券会社名、生命保険であれば保険会社や契約の存在が分かる程度の情報を一覧にしておくと、死亡後に相続人が一から財産を探す負担を減らせます。

特に近年は、インターネット銀行、ネット証券、電子化された保険契約など、郵便物や通帳だけでは存在を発見しにくい財産もあります。使用している金融サービスや重要書類の保管場所だけでも分かるようにしておくとよいでしょう。

自宅を残すのか、売却するのかを老後の生活と一緒に考える

老老相続では、自宅を「相続財産」としてだけではなく、本人の老後生活を支える資産として考えることも重要です。

本人が今後も自宅で生活するのであれば、修繕費や固定資産税、介護サービスを利用するための費用などを含めて、住み続けられるかを検討します。

一方、高齢者施設への入居を希望しているのであれば、自宅をそのまま残すのか、売却して入居費用や生活費に充てるのか、賃貸して収入を得るのかなどを検討することになります。

ただし、「施設へ入居したら自宅に関する相続税の特例が一切使えなくなる」と単純に判断することはできません。

小規模宅地等の特例では、被相続人が要介護・要支援認定などを受けて一定の老人ホームや介護施設等へ入居していた場合でも、入居前の自宅敷地について一定の要件を満たせば特定居住用宅地等として扱われる場合があります。施設入居後にその自宅を誰がどのように利用したかなども要件に関係するため、売却・賃貸などを決める前に確認することが大切です。

判断能力が十分なうちに遺言書を作成する

老老相続に備えるうえで有効なのが、本人の意思を遺言書として残しておくことです。

遺言書がなければ、原則として相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を取得するのかを決めます。しかし、相続人自身が高齢の場合には、一人が認知症になったり、入院したりすることで協議が難しくなる可能性があります。

有効な遺言書によって自宅や預貯金などの承継先をあらかじめ指定しておけば、すべての財産について相続人全員で一から分け方を決めなければならない状況を減らすことができます。

遺言の方法としては、自筆証書遺言や公正証書遺言などがあります。公正証書遺言は、公証人が法定の方式に従って作成し、原本が公証役場で保管され、相続開始後の家庭裁判所による検認も不要です。

自筆証書遺言についても、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、原本を法務局で保管してもらうことができ、相続開始後の家庭裁判所による検認が不要になります。

家族信託を財産管理の方法として検討する

将来の判断能力低下に備える方法として、民事信託、一般に「家族信託」と呼ばれる仕組みを検討することもあります。

そのため、本人の判断能力が低下した後も、あらかじめ信託契約で定めた範囲内で、受託者が信託財産を管理できることが大きな特徴です。不動産の管理や修繕、賃料管理など、将来継続的な管理が必要になる財産があるケースでは選択肢となります。

ただし、家族信託を行えば本人のすべての法律行為を家族が代行できるわけではありません。受託者が管理できるのは、基本的に信託の対象とした財産と、信託目的の範囲内の事務です。本人の生活・療養看護に関する契約など、信託だけでは対応できない事項もあります。

任意後見制度を利用して将来の判断能力低下に備える

将来、自分の判断能力が低下したときに誰に支援してもらうのかを自分で決めておきたい場合には、任意後見制度を検討できます。

任意後見では、本人に十分な判断能力があるうちに、将来任意後見人となる人を自分で選び、どのような事務について代理権を与えるのかを契約で定めます。任意後見契約は、公正証書によって締結する必要があります。

ここで注意したいのは、契約書を作成した時点から任意後見人が自由に本人の財産を管理できるわけではないということです。現在の制度では、本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任することによって任意後見契約の効力が生じ、任意後見人はその監督の下で契約に定められた法律行為を行います。

任意後見契約では、財産管理だけでなく、本人の生活や療養看護に関係する法律上の事務についても代理内容を定めることができます。そのため、特定の財産を管理することが中心となる家族信託とは役割が異なります。

一方、任意後見は本人の判断能力が低下して任意後見監督人が選任されてから本格的に始まる制度です。そのため、まだ判断能力は十分にあるものの、「足腰が弱くなったので銀行手続を家族に任せたい」といった段階の支援については、任意後見だけでは対応できないことがあります。現在からの財産管理まで希望する場合には、別途委任契約などを組み合わせる方法を検討することもあります。

遺言・家族信託・任意後見は目的に応じて使い分ける

老老相続への備えとして、遺言書、家族信託、任意後見が紹介されることがありますが、この3つは同じ役割を持つ制度ではありません。

遺言書は、主として本人が亡くなった後に「誰にどの財産を承継させるか」を決めるためのものです。家族信託は、本人の生前から特定の信託財産を受託者に管理してもらうことができる仕組みです。任意後見は、本人の判断能力が低下した後に、契約で定めた範囲について任意後見人が本人を代理・支援する制度です。

したがって、一つの制度ですべてを解決しようとする必要はありません。たとえば、不動産の管理については家族信託を利用し、それ以外の生活・療養看護に関する法律行為については任意後見契約を準備し、死亡後の財産承継については遺言書を作成するというように、目的に応じて組み合わせることも考えられます。

一度準備した内容も定期的に見直す

老老相続への準備は、一度遺言書や財産一覧を作れば終わりではありません。

本人や配偶者の健康状態が変わった、子どもが先に亡くなった、自宅を売却した、新しく不動産を購入した、相続人との関係が変化したなど、時間が経過すれば前提となる事情も変わります。

そのため、数年ごと、あるいは大きな生活の変化があったときに、財産一覧、遺言書、信託契約、任意後見契約などの内容を確認することが大切です。

特に老老相続では、「財産を任せる予定だった家族自身も高齢になった」という問題が起こり得ます。遺言執行者、受託者、任意後見受任者などを指定している場合には、その人が現在も役割を担える状態にあるかについても確認しておく必要があります。

この記事の監修者

行政書士法人クローバー法務事務所代表行政書士 大山悠太

監修者

行政書士法人クローバー法務事務所

代表行政書士

大山悠太

経歴

プロフィール
【経歴】
 
2016年4月:同志社大学法学部法律学科卒業後、新卒で不動産デベロッパーへ入社。入社後はマンション売買営業、人事部で新卒採用業務に従事。
 
2017年11月:行政書士試験合格
 
2019年5月:退職後、リンクス綜合法務行政書士オフィス開業
 
2023年1月:行政書士法人クローバー法務事務所へ法人化
 
【保有資格】
 
TOEIC745
 
宅地建物取引士
 
行政書士(申請取次)
 
ビジネス実務法務検定2級
 
【日本行政書士連合会登録番号】
第19261116号

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