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民法903条では、共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けた人や、婚姻・養子縁組のため、または「生計の資本」として贈与を受けた人がいる場合に、その利益を特別受益として具体的相続分の計算に反映する仕組みを定めています。
そのため、生活費の援助について問題になるのは、単に「お金をもらっていたか」ではなく、その援助が通常の家族間の扶養や生活援助の範囲なのか、それとも実質的に相続分の前渡しといえるような特別な利益なのかという点です。
家族には、一定の範囲で互いの生活を支える義務があります。
夫婦については、民法752条が「同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定めています。また、民法877条では、直系血族と兄弟姉妹は互いに扶養する義務があるとされています。扶養の程度や方法について争いがある場合には、扶養を受ける人の生活上の必要性、扶養する人の資力その他一切の事情を考慮して決めることになります。
そのため、家族として通常必要となる生活費、学費、医療費などを負担していた場合には、それだけで直ちに「遺産の先渡し」として特別受益になるわけではありません。
たとえば、収入のない学生の子どもに毎月の生活費を送っていた場合や、病気で働けない子どもの生活費・医療費を一時的に援助していた場合などは、金額や家族の生活水準にもよりますが、通常の扶養の範囲と評価されることがあります。
生活費の援助については、「扶養義務がある親族だから特別受益にならない」「扶養義務のない相手だから特別受益になる」と単純に判断することはできません。
特別受益で重要なのは、最終的にその援助が民法903条の「生計の資本としての贈与」に該当するかどうかです。
たとえば、親から成人した子どもへ生活費として毎月一定額が送られていたとしても、その子どもが病気や失業などによって生活に困っており、親の資力から見ても通常の援助といえる場合には、特別受益とは評価されにくいでしょう。
一方、十分な収入がある成人した子どもに対し、長期間にわたって高額な金銭を渡し続け、その結果、子どもが自分の収入をほとんど使わず財産形成できていたような場合には、単なる生活扶助ではなく、実質的な財産の前渡しではないかが問題になる可能性があります。
生活費という名目で金銭が渡されていても、名称だけで判断することはできません。
実際には、援助の金額と期間、援助を受けた人の収入・資産・生活状況、被相続人の収入や資産、金銭の具体的な使途、他の相続人にも同程度の援助があったか、援助によって受贈者が財産形成できたかなどを総合的に考えることになります。
特に、一時的な少額の生活費援助よりも、住宅購入資金、事業開始資金、高額な債務の返済資金など、将来の生活基盤となるまとまった資金を渡した場合には、「生計の資本としての贈与」として特別受益が問題になりやすくなります。
反対に、被相続人の収入や生活水準から見て通常の範囲で、日常生活に必要な費用を継続的に負担していただけであれば、相続分の前渡しとまでは評価されないことがあります。
援助額が高額であることは重要な判断材料ですが、金額だけで特別受益かどうかが決まるわけではありません。
たとえば、重い病気の治療のために一時的に多額の医療費を負担した場合と、住宅購入の頭金として同じ金額を渡した場合では、その目的が大きく異なります。
前者については、本人の生活や健康を維持するための扶養・援助として評価される可能性があります。一方、後者は住宅という財産を取得するための資金であり、将来の生活基盤を形成する利益であるため、「生計の資本としての贈与」と評価される可能性が高くなります。
原則として直系血族や兄弟姉妹には民法877条上の扶養義務がありますが、そのことは、相手が求める生活費を無制限に負担しなければならないという意味ではありません。
扶養の程度については、扶養を必要とする側の状況と、援助を行う側の資力などを考慮します。
そのため、すでに独立して十分な収入がある成人した子どもや兄弟姉妹に対して、被相続人が多額の資金を継続的に渡していた場合には、「親族だから通常の扶養」と当然に処理されるわけではありません。
反対に、独立した家庭を持つ兄弟姉妹であっても、重い病気や失業などによって生活が困難になり、被相続人が必要な生活費を一時的に援助していたのであれば、その事情を考慮する必要があります。
つまり、親族関係の近さだけではなく、援助を必要とした事情と金額・目的を具体的に見ることが重要です。
特別受益制度には、共同相続人間の実質的な公平を図るという役割があります。
たとえば、3人の子ども全員について、大学在学中に同程度の生活費や学費を負担していたのであれば、一人だけを特別受益者として扱う必要性は低くなります。
一方、3人のうち一人だけに住宅資金として2,000万円を渡し、ほかの子どもには同様の援助をしていなかった場合には、その贈与が相続分の前渡しに当たるかどうかがより問題になりやすくなります。
ただし、「兄弟間で金額に差がある」という事実だけで特別受益になるわけではありません。教育内容、病気、障害、家族構成など、それぞれ異なる事情に応じて必要な費用を負担していた場合もあるためです。
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