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亡くなった人の預金をおろすことでトラブルになりやすいケース

初めに

被相続人と同居していた家族や、日頃から生活を手伝っていた家族であれば、生前に「銀行からお金をおろしてきてほしい」と頼まれ、キャッシュカードの暗証番号を知っていることもあります。

そのため、死亡後に葬儀費用や入院費などが必要になった際、「これまでと同じようにキャッシュカードを使って引き出しても問題ないだろう」と考えてしまうことがあります。

しかし、被相続人が亡くなった時点で、預貯金は相続財産として扱われます。また、民法上、本人から与えられていた通常の代理権も、原則として本人の死亡によって消滅します。したがって、生前に暗証番号を教えてもらっていたことや、過去にATMでお金を引き出していたことだけを理由に、死亡後も自由に預金を引き出せるとは限りません。

ここでは、亡くなった人の預金を引き出したことで、特に相続トラブルにつながりやすいケースを解説します。

自分の相続分を超える金額を引き出した

死亡後に多額の預金を引き出し、その金額が最終的に取得する相続分を超えていた場合には、ほかの相続人との間で特にトラブルになりやすくなります。

また、遺産分割前に共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分した場合には、民法906条の2によって、その処分された財産を遺産分割の対象に含めて調整できる場合があります。

同条では、共同相続人の一人が財産を処分した場合、処分した本人の同意がなくても、ほかの共同相続人の同意によって、その財産が遺産分割時にも存在するものとみなすことができるとされています。

したがって、多額の預金を先に引き出したからといって、その金額をそのまま自分のものにできるわけではありません。

引き出したお金の使い道を説明できない

預金を引き出した後、そのお金を何に使用したのか説明できない場合も、相続人間のトラブルにつながりやすくなります。

たとえば、「死亡後の入院費として病院へ30万円支払った」「葬儀会社へ120万円支払った」というように、支払先、金額、日付が明確であり、領収書も残っていれば、ほかの相続人へ事情を説明しやすくなります。

一方、数百万円を引き出しているにもかかわらず、「何に使ったかよく覚えていない」「現金でいろいろ支払ったので領収書はない」という状態では、ほかの相続人から私的に使ったのではないかと疑われる可能性があります。

死亡後の預金だけでなく、死亡直前に多額の現金が引き出されている場合にも、「本人のために使用したのか」「家族が自分のために取得したのか」が争いになることがあります。

そのため、やむを得ず被相続人に関係する費用を支払う場合には、請求書、領収書、振込明細などを保管し、いつ、何のために、いくら支払ったのかを記録しておくことが重要です。

預金を引き出した事実をほかの相続人に隠していた

死亡後に預金を引き出したことをほかの相続人へ説明せず、後になって銀行の取引履歴などから発覚した場合には、金額そのもの以上に相続人間の信頼関係が問題になることがあります。

特に遺産分割協議では、相続財産の全体像を把握することが重要です。死亡後に預金を動かしたのであれば、金額や使途を資料とともに早い段階で共有しておくほうが、後の紛争を防ぎやすくなります。

葬儀費用だから自由に引き出してよいと考えた

被相続人の死亡後、すぐにまとまった金額が必要になりやすいのが葬儀費用です。

「故人の葬儀なのだから、故人の預金から支払うのは当然だろう」と考え、ATMから現金を引き出すことがありますが、葬儀費用に使う目的であっても、キャッシュカードを使って自由に引き出してよいことにはなりません。

現在は、葬儀費用や当面の生活費などに対応するため、民法909条の2による預貯金の払戻し制度が設けられています。全国銀行協会も、遺産分割前であっても一定額について相続人が単独で金融機関へ払戻しを請求できる制度を案内しています。

葬儀費用が必要なのであれば、被相続人のキャッシュカードをそのまま使用するのではなく、銀行へ相続開始を伝えたうえで、この制度を利用できるか確認するほうが手続きとして明確です。

また、葬儀費用を誰が最終的に負担するのかは、遺産分割とは別に問題になることもあるため、支払った金額と内容が分かる資料を保管しておくことが重要です。

相続放棄を検討しているのに預金を引き出して使った

被相続人に借金があり、相続放棄を検討している場合には、死亡後の預金の取扱いについて特に注意が必要です。

民法921条では、相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合、原則として単純承認をしたものとみなすと定めています。保存行為などは例外ですが、被相続人の預金を引き出し、自分の生活費や買い物などに使用した場合には、相続財産を処分したとして法定単純承認が問題になる可能性があります。

そのため、「借金は相続放棄する予定だが、口座のお金だけ先に使っておこう」という対応はできません。

相続放棄をすれば、原則としてプラスの財産もマイナスの財産も引き継がないことになります。相続放棄を検討している場合には、預金を引き出したり使用したりする前に、財産と負債の状況を確認することが重要です。

預金を自分の口座へ移し、そのまま私的に使用した

被相続人の預金を一度自分名義の口座へ移し、その後生活費や借金返済など自分自身のために使用した場合には、さらに問題が大きくなります。

単に「故人のお金を一時的に預かっていた」と主張しても、自分の財産と混在させて使用していると、どの部分が相続財産なのか分からなくなることがあります。

実際の裁判例でも、被相続人の預貯金を自己名義の口座へ移し、その一部を自分の借金返済や生活費へ使用していたことが争点となった例があります。

相続財産を一時的に管理する必要がある場合には、自分の生活費用口座と混在させず、入出金の記録を明確に残すことが重要です。

もっとも、そもそも死亡後に被相続人のキャッシュカードを使って資金を移動すること自体を自己判断で行うのではなく、金融機関の正式な相続手続きを利用するほうが安全です。

この記事の監修者

行政書士法人クローバー法務事務所代表行政書士 大山悠太

監修者

行政書士法人クローバー法務事務所

代表行政書士

大山悠太

経歴

プロフィール
【経歴】
 
2016年4月:同志社大学法学部法律学科卒業後、新卒で不動産デベロッパーへ入社。入社後はマンション売買営業、人事部で新卒採用業務に従事。
 
2017年11月:行政書士試験合格
 
2019年5月:退職後、リンクス綜合法務行政書士オフィス開業
 
2023年1月:行政書士法人クローバー法務事務所へ法人化
 
【保有資格】
 
TOEIC745
 
宅地建物取引士
 
行政書士(申請取次)
 
ビジネス実務法務検定2級
 
【日本行政書士連合会登録番号】
第19261116号

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