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相続放棄をしても残る「保存義務」とは

初めに

ご家族間での話し合い、情報共有は重要

家庭裁判所で相続放棄が受理されると、その人は原則として初めから相続人ではなかったものとして扱われます。そのため、被相続人の預貯金や不動産を取得することはなく、借金などの債務についても原則として引き継ぎません。

しかし、相続放棄をした時点で被相続人の家や土地などを実際に占有している場合には、「相続放棄をしたので今日から何もしなくてよい」というわけではありません。

相続放棄後に保存義務を負うのは「現に占有している人」

相続放棄をしたすべての人が、被相続人の土地や建物について保存義務を負うわけではありません。

単に法定相続人であったというだけで、遠方にある実家や利用したことのない土地について当然に保存義務を負うわけではありません。

たとえば、父が所有する自宅に長男が一緒に住んでおり、父の死亡後も長男がその家で生活を続けたまま相続放棄をした場合には、その家を現に占有していると判断される可能性があります。この場合、相続放棄によって所有権を取得しなくても、次に財産を引き継ぐ人などへ引き渡すまで一定の保存義務が残ります。

これに対し、何十年も実家を離れて暮らしており、父の死亡時にもその建物を使用・管理していなかった子が相続放棄をしたというだけで、その建物について当然に保存義務が発生するわけではありません。

「現に占有」とは単に相続人だったという意味ではない

改正民法で「現に占有」という言葉が使われたのは、相続開始によって法律上観念的に被相続人の占有を承継しただけの人まで、保存義務の対象にしないためです。

法務省の改正審議資料でも、「現に占有」とした趣旨は、相続放棄をする人が被相続人の占有を法律上観念的に承継しただけの場合を保存義務の対象から除外することにあると説明されています。

したがって、「相続人だから占有している」「実家の鍵を一本持っているから必ず占有している」と機械的に判断するものではありません。実際に誰が財産を使用していたのか、誰が管理・支配していたのかなど、具体的な状況から判断することになります。

他人を通じて管理している場合でも保存義務が問題になることがある

「現に占有」は、自分自身が土地や建物を直接使用している場合だけに限定されるとは考えられていません。「間接占有」であっても保存義務が問題になる可能性があります。

たとえば、被相続人の所有する建物について、相続放棄をした人自身は住んでいなくても、その人が賃貸人として管理し、入居者から賃料を受け取っているような場合には、単に現地に住んでいないという理由だけで保存義務がないとは言い切れません。

反対に、親族だからという理由で過去に何度か草刈りを手伝っただけで、現在は別の相続人が建物や土地を管理しているような場合には、その事情だけで直ちに「現に占有している」と判断されるとは限りません。

保存のために必要な費用を負担した場合は償還を求められることがある

相続放棄をした人が保存義務を果たすために必要な費用を自分で支払った場合についても、民法940条2項によって委任に関する費用償還の規定が準用されています。

そのため、相続財産を保存するために必要な費用を自己資金から支出した場合には、相続人などに対してその償還が問題になることがあります。

もっとも、どのような支出でも返してもらえるという意味ではありません。保存に必要だった費用なのか、本人が任意に行った改修や管理費用なのかによって扱いが異なりますので、高額な費用を支出する前には慎重に判断する必要があります。

保存義務は財産を引き渡すまで続く

相続放棄後の保存義務は、永久に続くわけではありません。

民法940条では、相続放棄をした人が現に占有している財産を、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまでの間、保存義務を負うとされています。

たとえば、長男が相続放棄をした後、次順位の相続人である父母などが相続することになり、家や鍵などをその相続人へ引き渡せば、その財産について長男が引き続き保存する必要は原則としてなくなります。

一方、相続人となるべき人が全員相続放棄するなどして、財産を引き継ぐ相続人がいない場合には、家庭裁判所で相続財産清算人が選任され、その清算人へ引き渡す方法が考えられます。

保存義務を負う可能性があるケース

相続放棄時に次のような状態であれば、「現に占有している」として保存義務が問題になる可能性があります。

  • 被相続人の所有する自宅に、相続放棄をした人自身が住み続けている

  • 被相続人の死亡前から土地や建物を事実上管理しており、死亡後も引き続き管理・支配している

  • 被相続人の不動産について、自分が管理主体となって第三者に使用させている

  • 賃貸不動産について、自分が管理し、賃料の受領などを続けている

  • 相続財産である動産などを自宅等で保管し、事実上自分の支配下に置いている

ただし、実際に「現に占有」に当たるかどうかは、単純に住所や名義だけで判断されるものではありません。直接占有・間接占有を含め、具体的な管理状況や財産との関係から判断する必要があります。

保存義務を負わない可能性が高いケース

一方、相続放棄をした時点で対象となる相続財産を実際に占有していなければ、民法940条の保存義務は原則として発生しません。

たとえば、被相続人とは長年別居しており、実家を使用したことも管理したこともなく、死亡後もその家や土地を支配・管理していない場合には、単に法定相続人であったという理由だけで保存義務を負うわけではありません。

また、遠方に住む親族として葬儀のため一時的に実家を訪れた、あるいは他の親族が管理している建物について一度確認に行ったというだけで、当然に「現に占有」していることになるとは限りません。

ただし、「実際の管理はほかの相続人がしているから自分には保存義務がない」と単純に判断することも避けたほうがよいでしょう。自分も管理者として行動していた、賃料を受け取っていた、第三者へ管理を委託していたなどの事情があれば、間接占有を含めて保存義務が問題になる可能性があるためです。

この記事の監修者

行政書士法人クローバー法務事務所代表行政書士 大山悠太

監修者

行政書士法人クローバー法務事務所

代表行政書士

大山悠太

経歴

プロフィール
【経歴】
 
2016年4月:同志社大学法学部法律学科卒業後、新卒で不動産デベロッパーへ入社。入社後はマンション売買営業、人事部で新卒採用業務に従事。
 
2017年11月:行政書士試験合格
 
2019年5月:退職後、リンクス綜合法務行政書士オフィス開業
 
2023年1月:行政書士法人クローバー法務事務所へ法人化
 
【保有資格】
 
TOEIC745
 
宅地建物取引士
 
行政書士(申請取次)
 
ビジネス実務法務検定2級
 
【日本行政書士連合会登録番号】
第19261116号

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